気のすむまでバケツ2杯分くらい

漫画の感想を書いていきます。主にBL 漫画 たまにBL 以外の漫画と小説も。

ヤサシイワタシ

 今回はひぐちアサさんの「ヤサシイワタシ」です。

BLじゃないんですが…

ふとしたきっかけでこのヤサシイワタシ読んでみたら、この漫画の事が頭から離れなくなってしまった

私にとってはなかなか衝撃的な作品でした。

 あらすじ

 イヤな女? カワイイ女? 純情青年が大学の写真部で出会った先輩は、部の「要注意人物」だった。やがてふたりは付き合い始め──。大ヒット野球漫画『おおきく振りかぶって』の著者が、注目の新人時代に放った、普遍的で深刻なテーマをシリアスに描いた初単行本。切なさに体温があり、甘さには血が通う。告白にも似た傷つけ合いは成長すら痛々しい。リアルな人間像を熱く描く、悲しきジェットコースターラブストーリー、開幕!

(Renta!の作品紹介を引用)

 

感想

(ネタバレ含みます。未読の方はご注意を

 

作者のひぐちアサさんは高校野球を題材にした「おおきく振りかぶって」という言わずと知れた名作漫画(いまも連載中ですね)を描いておられる方で、

私もおお振り好きで読んでるんですが(新刊出たら感想書きたいなと思ってます)

このヤサシイワタシは、おお振りの内容との差が激しいというか

なんの笑いもなく、ずっとシリアス続き、

躍動感溢れるコマもなく、登場人物たちが言葉を交わしながら淡々と進んでいく物語です。正直、とても息がつまる作品です。

読む前にあらすじも把握していたし、ネットで知り得た情報で結末をなんとなく知った上で読んでしまったのですが、そういうの差し引いてもやはり心にずしっとくる漫画でした。

一読しただけでは、一体何が何だったのかさっぱりという感じでした。主要人物である芹生とヤエの心の動きが追えない、会話が理解できない。

この人たちは一体何を喋っているんだ?!と混乱してしまったのが事実です。読解力ないなーあ…。

最初は再読する事すら躊躇いましたが、でもやはり何か心に残るものがあって

何度も何度も読み返して、感想などを書かれているブログも見に行きました。

 

何度か読んでやっとわかったのはヤエの孤独さ不安定さ心の弱さ。

ヤエの行動や言動は登場人物たちだけでなく、読み手からも嫌われるように作り込まれてるように感じました。一巻を読んだ時点で彼女の性格が無理だと思う人も多いはずです。

ヤエに共感したり寄り添ったりできるかどうかで物語の見方は大きく変わってくると思いました。

つまりは、自分がヤエのような人だったら?とか、

自分にもヤエのような不安定さは無いと言えるのか?という事を問えるかどうかです。

私も一読目では、最後まで読んでもヤエはほんと酷い人だな最悪だなとしか見られなかったです。自殺という手段さえ周りの人たちを傷つける最悪な方法だと。どこまで性格が悪いんだと…。

ヤエは根本からもう不安定なんですよね。何をしてもグラグラしてしまう人なんです。ヒロタカも自分とヤエを重ねて見てはいたものの、やはり決定的に違っていると思いました。ヒロタカは前に進む強さを持っているけど、ヤエにはそれができなかった。最後のヒロタカとヤエの会話で、ヤエはそれを感じ取っていたように思えます。

最後の笑顔がすごく切ないです。

ヤエの根元の不安定さ作ったのはやはり家庭…なんですかね。そう思うとやり切れないですね。子供にとって親ってほんとうに大事なんですよね…。

 

話は逸れますが

私は小説でも漫画でも音楽でも、あるモチーフを何度も繰り返し伝えようとする人、

形を変えてでも、ずっと同じ事を表現し続けている人ってとても尊敬します。なぜだかそういう表現者の方の作品が好きだし、そういう部分を見つけると嬉しくなります。

ひぐちアサさんにとってのヤサシイワタシは原点的な作品のように感じました。

おお振り」にも自信をなくした主人公(ヤエとは違い芯はありますけど)と、

最初は卑屈な主人公をあまり理解できない野球部員達が心を通わせながら彼を理解し成長していく過程が描かれています。陰で頑張っている主人公をどうにかして自信持たせてあげたいと奮闘する場面や、怪我をして初めて知る怪我をした人の気持ちも描かれています。

こっちは登場人物たちがどんどん成長していくので希望に溢れていてとても読んでて楽しい漫画ですけどね。

ひぐちアサさんの作品を全部読んだわけではないのであくまで憶測ですし的外れかもしれませんが、何か根底の部分に通じるものを感じました。